HHKBを塗り替える&押下圧を軽減する
前の記事から4か月も空いてしまいました。こんにちは。
さて今回はHHKBの筐体の色を塗り替え、押下圧(キーを押し下げるために必要な力)を変える工作をしてみます。
使うのはこちらのHHKB Pro2。キーキャップは取り外してあります。
背面のシールによると2008年4月製造。筐体が黄ばむのは白のHHKBの宿命。
最近はBTばかり使っていて出番がなかったこの子をリニューアルです。
長い記事ですが、お読みいただけると幸いです。
まずは背面のねじ3本をはずして分解。ぱかっと開けるとこうです。
HHKB Pro2はUSBハブ機能付きなので、筐体下面にこのような基盤がついています。
この写真では左下の基盤のねじ1本をはずすと取り外せます。
基盤右上の白いコネクタも外しましょう。かなり抜けにくいので、爪やピンセットの先などでコネクタの両側から少しずつ押し出すようにするといいようです。断線したら終わりです。あきらめなくてもそこで試合終了です。慎重に。
筐体上面とメイン基板を止めている20本弱のねじをすべて外して分離すると、
こうなりますね。基盤に乗っている灰色のラバードームをあとで交換します。
筐体上面にはまだ黒いプランジャ(キーを支える部品)がついているので外していきます。
爪で押し込めば外れます。こちらの記事もご参照下さい。
左Shiftキーのプランジャ。
左ShiftキーとEnterキーにはスタビライザーがついています。プランジャを同じように押し込むと、金属製のバーを残して外れます。そのあと筐体のツメに引っかかっているバーを外せばとれます。プランジャとバーは固定されていないので、よく観察してあとで戻せるよう構造を理解しておきましょう。
スペースキーのスタビライザーは外す必要はありません。
分解完了です。
ねじは種類ごとにトレイに分けてなくさないようにしておきましょう。
本番はここから!
筐体上面・裏側をマスキング。
ダンボールで持ち手をつけておきます。ねじ穴や筐体下面にひっかかるツメに塗料がかからないようマスクします。
筐体上面・表側です。
スペースキーを支えるスタビライザーの周辺は可動部分なので完全にマスクします。
筐体下面・裏側です。
ゴム足部分、スタンド部分、銀色のシールをマスキング。デザインナイフと定規で慎重にマスクします。乗っているのはDIPスイッチのカバー。竹串の持ち手をつけておきました。
ここで登場するのが…
はい、手帳などに貼る?シール。これをどうするかと言いますと…
こうします。
筐体上面の穴のなかに塗料が入り込むのは絶対ダメ。キータッチに影響します。
直径1cmの丸いシールって意外と見つからなくてネットを探し回って見つけた顔面シールでマスクしました。
……が、これがのちに悲劇へとつながります。
それはともかく、塗装開始です。
シリコンオフを吹きつけたキッチンペーパーで拭いてよく脱脂し、
サフェーサーを吹いたところ。一度捨て吹き(さっと全体に振りかける)した後、時間をおきつつ2度ほど吹きました。よく乾燥させて、1000番のサンドペーパーで表面をならします。
サフェーサーは素材の表面をならし、塗料の食いつきをよくするためのものです。吹いたままではゴミやわずかな凹凸が残るので、ペーパーでさらにならすわけです。せっかく吹いたサフェーサーを削ってしまわないよう、ごく軽い力で。カドは力が入りやすいので、面部分を中心に。
ペーパーがけのあとはエアダスターで削りカスを飛ばしておきます。
キーキャップを塗装したときにも使ったブラウンメタリックを吹きます。
こちらも捨て吹きのあと3度ほど塗り重ねました。
充分乾燥した後、艶出しクリア―を3回ほど塗り重ねます。
クリアーが乾き、細目→中細→極細とコンパウンドで磨いてマスキングをとります。
はい、よくできました。なかなかの光沢感じゃないですか?
「どうせ見えないし」と思ったんですが、スペースキーまわりはもっとちゃんとマスキングした方がよかったですね。まぁ気にしないことにします。
塗装はいったんここまで。次は押下圧変更の作業です。
使うのはこちら。
Keyclackという海外サイトで販売している、
「BKE Topre Dome Replacements」(写真右)
「Topre Silencing Rings v2」(写真左)
という商品です。セット売りもあります。合わせて72ドル+送料で9915円(!)でした…。
まず、深紫のラバードームはキーの押下圧を変更するためのものです。
HHKBのキーは、プランジャを介してラバードームによって支えられています。ラバーの反発力で押したキーが元に戻るわけですね。これを交換することで、キーを押し込むためにどれくらいの力がいるか(=押下圧。HHKBでは45g)を変更できるわけです。
(ちなみにラバーの下に入っているスプリングはキーの押し下げを感知するためのもので、押下圧にはあまり関係ないと思われます)
僕はキータッチを軽くしたかったので、上記のサイトでUltra Lightを選びました。ほかにLight(たぶんHHKBと同じ)・Heavy(たぶんRealforceと同じ)・Extreme(たぶんRealforceより重い)があります。
黒いリングはキーの静音化のためのものです。
以前紹介した静音化パーツのSilence-Xとの違いは、Silence-Xがプランジャにかけていくシリコンリングだったのに対し、Topre Silencing Ring v2は筐体上面側(ハウジング内)に両面テープで貼り付けるリングになります。つける場所が違うだけで、プランジャがハウジングにぶつかるときの音を軽減する効果も、キーストロークが若干減るのも同じです。
ただし、声を大にして言いたいのは、はっきり言ってこのSilencing Ring v2はオススメしません。
引き続き工程を追いながら理由をご説明します。
Silencing Rings v2はこのように取り付けていきます。
リングの剥離紙を剥がし、ひとつひとつ、ハウジング内に貼り付けます。
これがもう超メンドくさい。
ちまちまちまちま紙を剥がすのがメンドくさい。
ピンセットは貼りついちゃうので2本の竹串を駆使して場所を決めて貼り込んでいくのがメンドくさい!
これを60か所やるのが投げ捨てたくなるほどメンドくさい!!
やったよ…全部。
プランジャを戻して…
次はラバードームの作業です。
まずは筐体上面に綿棒の足をつけました。
ラバードームをこの裏側に乗っけていくんですが、その際プランジャが自由に動く状態にしておく必要があるからです。(別に足はこの形でなくとも筐体を浮かせておければOKです)
筐体上面を裏返したところにラバードームとスプリングを置いていきます。
ラバードームの切り欠きと筐体の凹凸を合わせて乗せ、スプリングを乗せます。
くれぐれも慎重に、スプリングを曲げないように。あきらめなくてもそこ(ry
ピンセットは金属の上、力が入りすぎてしまうので、竹串と指を駆使して乗せていくのがおすすめです。
これを60か所やっていきます。
途中経過。
純正のグレーのラバードームは、単体のものと数10個つながってるものがあります。
交換する紫のラバードームは全部単体です。
先に紫のラバーを全部乗せたのち、グレーのラバーの中からスプリングを取り出して乗せていくのがいいと思います。竹串おすすめです。
見落としそうですが、左ShiftキーとEnterキーだけはラバーの向きが90度違います。上の写真と筐体の形を見て、同じ向きになるようにしてください。
やったぞ…。
全部乗っけました。竹串2本を駆使して、ラバードームが整然と並び、スプリングが完全に収まるよう調整しましょう。これが甘いとやり直しです。
この状態になったら、そーっと、極めてそーっと、上から元通り基盤をかぶせてねじ止めまでします。ラバーがずれたらやり直しです。ラバードームの端が重なったりしていないことが重要です。
基盤の穴と勘合する突起が2か所あるので、それを目安にかぶせるとやりやすいです。
ちなみに僕は一度目は成功しませんでした。
動作確認で反応しないキーがいくつかあり、基盤のねじを全部はずしてラバードームの位置を調整し、またねじ止めして動作確認しました。二度目で成功しました。
動作確認にはこのようなサイトが便利です。どのキーが押されたかを表示してくれます。
慎重な作業すぎて写真がありません。ごめんなさい。
どうにか出来上がりました!
ちなみにこの充電式の電動ドライバーが結構便利です。
エンプレイス 電動ドライバー USB充電式 手動兼用 ボール型 3.6V ブラック (両頭ビット付き) NT-HB001-B
- 出版社/メーカー: エンプレイス(Nplace)
- メディア: Tools & Hardware
- この商品を含むブログを見る
手回しと電動がシームレスに併用できて大変よい。
ただし、手回しで最後の締め込みはしない方がよさそうです。握りの径が太いため、思った以上にトルクがかかりすぎて基盤を割ったりねじ穴をツブしたりしかねません。緩めと、締めの途中まで使って、締め込みには普通のドライバーで手回しがいいでしょう。
さて、あとはキーキャップをつければキーボードとしては完成なんですが、まだやることがあります。
塗装してしまったことで、キーボード右下のHHKBロゴがなくなっちゃったんですね。
ちょっと寂しいので、あらたにロゴを塗装します。
はい、HHKBロゴのマスキングです。
某メ○カリで、マスキングのオーダーを請けてくれる方を見つけたので発注しました。たぶんステカSV-8なんかをお持ちなのだと思います。
大きさは元のロゴと同じ。Professional 2の文字部分はさすがに切り抜けないそうで、残念ながらあきらめました。
これを使ってロゴを塗装します。
マステで位置決めして…
剥離紙を剥がして貼り付け、マステとビニール袋でマスキング。
塗装はこれで。
ガンダムマーカー エアブラシセット、色はシャインシルバー。
塗れました。
単純で小さな塗装にガンダムマーカーは楽ですね。塗装のノリがよく、強いし、片付けも簡単。
マスキングを剥がし、完成!
ま、ないよりはいいよね、って感じ。何かオリジナルの模様とかにしてもよかったんでしょうが、デザインセンスが皆無なんで…。
さて、これで完成…と思いきや、不具合が発生しました。
どうもキータッチがよろしくない。
押し込むときに粘るような感触や、軋むような感触のキーがいくつもあります。
どうやら静音リングの両面テープがはみ出してプランジャにくっついている(粘る感触)らしいのと、塗料がハウジングに回り込んで摩擦(軋む感触)を生み出しているようなのです。
悲劇です。
ここまでやって使えないなんて…。
というわけでリカバーです。
また全バラして、呪いを込めつつ静音リングをピンセットでひっぺがします。
まぁまぁの値段するくせに使えない子です。オススメしません。
全部剥がしたあと綿棒とアルコールウェットティッシュで接着剤を拭きとり。
おわかりだろうか…。
丸いテープではマスクしきれなかった、ハウジングの横の切り欠きから塗料が回り込んでいたようです。このわずかな塗料がキータッチに影響を与えるのです。これを除去していきます。
こんなものを作りました。
竹串にマスキングテープをぐるぐる巻いて、さらにサンドペーパー1000番を巻き付けたものです。これで穴をしゃこしゃこ磨いて余計な塗料を落としました。
今回は竹串が大活躍です。
静音化には、Silence-Xの残りがぴったり60個あったので使います。
作業は慣れたもんです。ピンセットでさくさく掛けました。
筐体上面を浮かせて、ラバードームを並べて、スプリングを置いて…。
基盤をかぶせてねじ止め、コネクタをつないで動作チェック…。
一発成功!!
プランジャにシリコンスプレーの液を塗って静音化の仕上げをし、ついに完成です!!
どうでしょう? それなりの光沢と高級感があってイイ感じなのでは?
キータッチの粘りや軋みも完全に解消されました!
さて肝心の押下圧軽減はといいますと、変わりました。
言葉で説明するのは難しいのですが…
【純正ラバードーム】
押し下げ始めた瞬間から沈み、底打ちへと近づくにしたがって重くなる感触
【今回のラバードーム】
押し下げ始めた瞬間はやや硬く、それを過ぎるとスッと吸い込まれるように沈んでいく感触
という感じで、全体としてのキータッチは明らかに軽くなっています。純正に比べて指が踊る印象。
純正に慣れた指でタイプすると、思考よりも先に指がキーを押している感覚すらあります。(もう慣れちゃいましたけど)
はっきり言って、イイです。
今回のラバードーム換装の効果は大きく2つ。
1.指の疲労が減る
これは言わずもがな。キータッチが軽くなったことでより楽に、スピーディに入力できます。
2.タイプミスが(ちょっとだけ)減る
これはどうしてだろうと考えました。
HHKBの特徴である静電容量無接点方式のアドバンテージは、底打ちしなくても入力を拾える点にあります。
長文を流れるように入力していると、タイプする指の力がだんだん下がってきます。HHKBはそうしたときでも取りこぼしがない反面、ちょっとしたタイプミスも敏感に拾ってしまいます。
一方、今回換装したラバードームでは押し下げ始めがほんの少し硬いため、弱すぎる力では入力されず、結果としてミスが減るのではないかと考えられます。
ただ静音化に関しては、以前HHKB BTに施したそれよりも効果は薄かったです。まったく同じ施工(Silence-X+シリコンスプレー液塗布)をしているのですが、前回よりやや打鍵音が大きいと感じます。(もちろんノーマル状態よりは明らかに静かです)
Pro2とBTの形状の違いは電池ボックスの有無だけですが、当然金型は別でしょうから筐体自体に微妙な違いがあるのかもしれません。ロットの違いもあるかもしれません。
ともあれ、今回やりたかったことはこれですべて達成です。
・筐体の塗り替え
・押下圧の軽減
・静音化
静音化リングの使えなさは予想外でしたが、Silece-Xが残っていたおかげで達成することができました。
結論:
・押下圧の軽減にBKE Topre Dome Replacementsはオススメ!
・静音化はSilence-X 一択!
すっかり長くなりましたが、今回の工作はこれにて終了です。お付き合いいただきありがとうございました。
それではまた、次回の工作で。
現在の無敵の入力環境
HHKB+HHRR+Logicool MX ERGO(ぺリックス 34mmトラックボール光沢仕上げに換装済)